「台本を開くと『ベッドに横たわる裸の男』と書いてあって、また何ページか進むと『裸の男が海に飛び込む』とありました」とファースは思い出します。「思ったんです。そろそろ時間だ。50歳を前にもう一度重力に逆らわないと、あとは下り坂だって」
その俳優は肉体的にも精神的にも自分を追い込みました。その結果「人の心を掴んで離さない、繊細で絶妙な演技」と今年の最も優れたパフォーマンスの一つとして関係者たちからも称賛されています。
「この映画は小規模でパーソナルな映画だと思っていたから、こんなにも大規模な感じになるとは思っていなかったんです。だから皆がどんな反応をするのかドキドキしています」とロンドンにいる彼は語ります。
「ある男の1日を描いた映画です。数少ないスタッフと共にたった21日間で撮影しました。とても刺激的で親密な日々でした。最高に素晴らしかった」
彼の高い知名度と称賛は以前からありましたが、うぬぼれは禁物だと彼自身よく分かっています。
「こうしている間にも別の仕事は進行中です。今はある映画を撮影中で、長時間拘束でとてもキツイ撮影が続いています。皆がこの映画を褒めてくれて、その間の私は輝いているかもしれない。けれど別の場所では次回作が進行中なわけだから、地に足を付けておかないとね」
ファースの最初のブレイクは1995年に放送されたミニシリーズのテレビドラマでした。その中で彼はミスター・ダーシーを演じ、後にレネー・ゼルウィガーの相手役としてダーシーイズムを感じる男を演じました。
その当時一緒に仕事をしたマーク・ストロング(2人の初共演は1997年)は彼についてこう語ります。「たくさんのキャリアを積んでここまで来るのに時間がかかった彼がこうして評価されるのは本当に素晴らしいことだと思います。俳優業っていうのは紆余曲折があり安定していない。彼がミスター・ダーシーを演じていた頃、『ワオ!君は世界のトップに行けるぞ!』って感じだったけど、彼はそうしなかった。そして何年後かにまたホットな男に舞い戻ってきた。彼を思えば当然の事だけどね」
『シングルマン』はオーストラリアでは2月に公開予定です。監督を務めるのはファッションデザイナーから映画監督に転身したトム・フォード。そして無駄のない予算と少ない共演者。そんな中での撮影を振り返り、ファースはこう言います。
「おそらく人生の中で最も熱のこもった演技指導でした。演じるキャラクターは悲しみに暮れ、自殺を決意した男です。その男の目に映るもの、それについてを彼はとても大事にしていました」
その短い撮影の中で、彼はエリザベス・キューブラー=ロスの死の受容のプロセスを参考に、演じるキャラクターの持つ悲しみに気持ちを集中しました。
「意図的になのか無意識になのか、ジョージの周りの人間は彼を助けようとします」とファースは言います。映画の中でジョージは近所の人や見知らぬ人、そして彼に夢中な教え子(ニコラス・ホルト)と出会います。「彼らは皆ジョージに『生きろ!』と言いますが、彼の決意は変わりません」
ファースは自分の気持ちを保つためにこう考えたと言います。「ポジティブな選択に焦点を当てることです。不幸はとても辛いこと。だから不幸を演じたりはしない。私が演じるのは失恋を乗り越えようとするジョージという男です。悲しみは敵であり、彼は平穏を求めている。だからこそ自殺という決断は彼にとっては平穏を手にするための手段なんです」
長年に渡る俳優業についてファースは「年齢を重ね、色々なものを失い、撮影中に何を思い、何を考えていたのかを思い出すことが出来なくなっていきます。次々と映画をこなしていく中で、インタビューにおいてのお決まりの答えをいくつか持つようになり本当のことは失われていきます」
「ですが、これだけは他の何よりもはっきりと思い出せます。妙な話だけど…」とクスクス笑いながら続けます。「目を閉じてこの映画を思い浮かべると、ニック・ホルトの驚くほど青い瞳が私を見つめ返すんだ」
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