3.29.2023

Hマートで泣きながら - ミシェル・ザウナー

 「『雨の日と月曜日は』はありますか?」。尋ねると、女主人がYouTubeの検索ボックスに曲名を打ちこみ、MIDIのカラオケ動画をクリックしてわたしにマイクを渡した。キンがステージにもたれて歓声を上げた。演奏がスタートするとキンは目を閉じてにっこりし、体を揺らした。

「わたしも歳を取ったと思いながら、ひとりごとをつぶやく……もうおしまいにしたいと思うときもある。なにもかもがしっくりこなくて……」。歌いはじめて、マイクにたっぷりリバーブがかかっているのに気づいた。それはもうすばらしい歌声だった。これだけリバーブをかけたら、下手に歌うなんて不可能だ。目を閉じて歌の世界に浸り、あの小柄で悲しいカレン・カーペンターになりきろうとした。空腹に耐えながら、カメラの前では幸せな顔をしていなければというプレッシャーに潰され少しずつ壊れていった黄色いドレスの女性、完璧を志しテレビの生放送でゆっくり自滅していったあの女性になろうとした。

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