5.30.2020

暴力的で危険な男を演じるサム・ロックウェル、そして友人フィリップ・シーモア・ホフマンについて

DAZED - January 4, 2018

私たちはマーティン・マクドナー監督のオスカー受賞が期待される映画『スリー・ビルボード』に出演するスターと話す機会を得ました。

1989年公開の映画『Clownhouse』でデビューして以来、サム・ロックウェルは数々の印象的な映画や舞台に出演してきました。 カリフォルニア生まれのロックウェルは、助演として数々の映画に出演し、主役を食うほどのパフォーマンスを繰り広げ、『月に囚われた男』 『セックス・クラブ』『コンフェッション』などの主演作では、見る者の心を鷲掴みにする演技を披露するなど批評家や観客たちを興奮させてきましたが、 アカデミー賞とは縁遠い存在でした。

しかし、オスカー受賞が期待されるマーティン・マクドナー監督の映画『スリー・ビルボード』で見せる彼の演技は、アカデミー賞に見過ごされたきたこの流れを変えるのではないかと思われます。ロックウェルが演じるのは人種差別主義者の警察官で、娘を殺した殺人犯を見つけられない警察に怒りと非難の目を向けた、復讐に燃える母親と対立するジェイソン・ディクソンという男です。物語が進むにつれてマクドナーの巧みな脚本とロックウェルの人情味溢れる深い演技のおかげで、ディクソンはチンピラからヒーローへと変化していきます。

もしロックウェルがアカデミー助演男優賞を獲得したら、それは当然のことでしょう。しかし、彼は俳優になりたいという夢はほとんど持っていなかったと言います。幼少期に両親が離婚し、父親のピートと一緒にサンフランシスコで暮らし、夏の間は母親で女優のペニー・ヘスとニューヨークで過ごしました。彼は時々母親のヘスと一緒に舞台に立ちましたが、演技の世界には向いていないと感じ、通っていた演劇学校を中退します。しかし有難いことに、次に入学した学校が(彼の言葉を借りて言えば)「酔っぱらって、女の子とイチャついて、パーティー三昧」だった事で先ほどの考えは変わりました。遊び呆ける代わりに演技への愛を再発見したのです。

私たちはヴェネツィア国際映画祭でサム・ロックウェルに会い、人懐っこいそのスターといくつか話をしました。彼が次回作で演じる予定の差別的で横暴なジョージ・W・ブッシュについて、そして同世代の偉大なる俳優であり友人の故・フィリップ・シーモア・ホフマンについて。

マーティン・マクドナーの脚本は完璧でした。手にした時、興奮しましたか?

サム・ロックウェル:まるでクリスマスプレゼントのようでした。「ワオ!」って感じ。圧倒されましたね。

あなたが演じるジェイソン・ディクソンは始めは暴力的で人種差別主義者、そして愚か者ですが後に成長していきます。彼の事は好きですか?

サム・ロックウェル:好きですよ。最初の内は少しバカだけど次第に彼は変化を遂げていく。そこは少し救いがあると思う。

アメリカの警察は残虐行為や人種差別について様々な話がありますけど、このキャラクターはそこを正しく描いていますよね?

サム・ロックウェル:その通りだと思います。最近は人種差別主義者の役柄を演じることが多かったんですが、実に興味深い世界だと思っています。自分とは違う世界だからこそ調べてみると面白いというか。実際にミズーリ州南部に行ったんですが、そこでは感じの良い警察官や火傷の被害者にも会いました。すごく興味を持ちましたね。

実際に感じの悪い差別的な警察官には会いましたか?

サム・ロックウェル:差別的な人には会わなかったけど自己主張の強さを感じる人たちはいましたね。何泊かしたのですが面白かったですよ。けどアメリカでは実際に人種差別が起こっているわけだから、本当に恐ろしいことですよね。だからこれについて話す良い機会だと思います。僕は他の映画(『ベスト・オブ・エネミーズ -価値ある闘い-』)でKKKのリーダーを演じたのですが、その映画はKKKのリーダーとタラジ・ヘンソン演じる人種隔離に反対する公民権運動家の間に芽生える友情を描いた実話で、実際にシャーロッツビルでそういった出来事が起こったりしたわけだからとてもタイムリーですよね。

ディクソンは人種差別主義者の母親と暮らしていますよね。この映画では母親の思想が息子にどう影響するかについても触れています。アメリカにおいての母親と息子の関係性についてはどう思いますか?

サム・ロックウェル:アメリカにおいてですか?お互いに干渉するのではなく独立した考えを持つっていう傾向があるのかな?そうですねぇ、まぁアメリカに限ったことではないけどエディプスコンプレックスについては興味深い事案だと思っていますね。母親にべったりな男っているけど、全ての男は人生においてどこかしらの段階でエディプスコンプレックスな一面があったんじゃないかと思ってる。ドラマにしろコメディにしろ、結局は全てハムレットでありシェイクスピア。演じるのはいつも楽しいですよ。

あなたは両親が離婚して、父親と一緒に暮らしていたんですよね?

サム・ロックウェル:そうですね。生い立ちは労働者階級版『クレイマー、クレイマー』って感じでダスティン・ホフマンより貧しかったですね。

父親がいないディクソンの気持ちは理解出来ますか?またどう感じていますか?

サム・ロックウェル:幼少期から僕は母親のいない家庭で育ったけど、夏の間だけは母親のところで過ごしていました。けど(環境に限らず)人は喪失とか怒りや憤りを感じて生きていく中で、地球上の全ての人間が臆病者にもヒーローにもなれる世界だと思っている。その日一日が良い日だったかそうじゃなかったかで決まってくると思うんです。良い日だったらヒーローになれるし、そうじゃなければ人を殺しているかも知れない。それは全員に起こりうることで、俳優っていうのは自分自身の中から近いキャラクターを探し出すことだと思っています。

あなたは子供の頃に想像力は強かったですか?また小さい頃から演劇に興味を持っていましたか?

サム・ロックウェル:子供の頃はよく空想していましたね。(小さい頃から)映画を見たり母親と舞台に立つこともあったけど、真剣に考えるようになったのはもう少し大人になってからでした。真剣に取り組み始めたのは演技を勉強していた20代の頃で、すごく楽しかったですね。

ご両親はあなたを私立校へは行かせなかったんですね?

サム・ロックウェル:まさに!実際のところ学校がそんなに得意じゃなかったので、(俳優をしていなければ)ガソリンを汲み上げたりとかそういう適当な仕事をしていたかも知れないですね。レストランで働いて食器を下げたりバーテンダーをしたり、そんなような仕事をたくさんしていました。

俳優として生計を立てたいと思ったのはいつ頃からですか?

サム・ロックウェル:30歳の時です。18歳から(演技を)始めていたので12年経ってからですね。けどアパートを買ったのは40歳だから、そう考えると40近くまでかも。サンフォード・マイズナーという方を知っていますか?演技講師の彼が開発したマイズナー・テクニックについて勉強したんですけど、彼が言うには俳優になるまで20年はかかるらしくて、実際に僕もそう思うんです。だから20年以上経ったから僕はもう俳優かな。けど(何年経っても)全ての仕事において学ぶべきことは常にあると思います。

次回作はアダム・マッケイが監督するディック・チェイニーの伝記映画で、あなたはジョージ・W・ブッシュ大統領を演じますよね。今アメリカではブッシュに対して少し懐古しているような雰囲気がありますが、それについてはどう思いますか?

サム・ロックウェル:僕もそう思います。だいたい53歳あたりから9・11が起こった時期くらいまでを演じます。彼に会ってみたいですね。ケリーやゴアとのディベートを含め彼に関する色々な資料を見ましたがとても人当たりの良い人ですよね。

ツインタワーに飛行機が突っ込んだという知らせを受けた時、ブッシュは子供たちに絵本の読み聞かせをしている最中でした。その際にフリーズしているように見えたシーンがありましたが、そこは演じる予定ですか?

サム・ロックウェル:そこは映画では描かれていないんですよね。ただ、あの瞬間の彼にはとても同情します。あの時ショックを受けていたのか、それとも何をすべきか頭の中で考えていたのかは分からないですが、(あのフリーズに対して)今はそこまで厳しい批判はしないです。トランプのせいかも知れないですね。

『スリー・ビルボード』でフランシス・マクドーマンドは怖かったですか?

サム・ロックウェル:来る日も来る日も全員が怖かったですよ。ウソウソ、彼女は素敵な方です。彼女の演技はまるでレーザーのようで、とても格別で素晴らしいものでした。それでいてキュートで愛らしくて本当に素晴らしい女優さんだと思います。

窓から人を投げ飛ばす驚くほどバイオレンスなシーンがありますが演じてみてどうでしたか?

サム・ロックウェル:面白かったですよ。あのシーンはすごく好きなんです。ここ何年かでアクションシーンを色々やったけど、映画や舞台でのアクションってダンスみたいなんですよ。『バッド・バディ! 私と彼の暗殺デート』やサム・シェパードの舞台『Fool For Love』とかでもやったけど、まるでダンスなんです。バレリーナやダンサーはアメフト選手よりもケガをしているでしょ?そう考えると、ぶつかり合いのないアメフトって感じですね(掌を2回パンチする仕草)。踊ることが好きだからアクションシーンも好きなんです。『月に囚われた男』では自分自身と戦い合ったし、自分のケツを蹴り上げるシーンもやりましたよ。

あなたはとても穏やかそうに見えますが、そういった怒りのシーンを自分の中から呼び起こすのは簡単な事ですか?

サム・ロックウェル:簡単ではないこともありますね。コーヒーを飲んで音楽を聴く時間が必要な時もあるし、シーンによってはスタッフと冗談を言い合っている時もある。ドラマティックなシーンの時は一人になる時間が必要ですね。部屋の隅で誰とも話さず、傘でごみ箱を打ち鳴らして椅子を壊してから撮影に入ったことがあるんですが、その時はみんなに頭がおかしくなったのかと思われましたね。

演じる役柄と本当の自分自身との間にどのくらいの距離がありますか?

サム・ロックウェル:役を家には持ち帰らないですね。家に帰って『シンプソンズ』を見てビールを飲んでシリアルを食べたりして。シーンの途中(で撮影を終えた)の時は家に持ち帰らないといけないこともあるけどそれはとても疲れるますしね。ダニエル・デイ・ルイスはそういう(持ち帰る)タイプですね。多分クリスチャン・ベールもそうだと思う。シーン・ハックマンやデニーロ、クリストファー・ウォーケンは違ったかな。友人のフィル・ホフマンはいつも冗談を言っていましたね。あと、舞台俳優の場合は繰り返し演じる方法を知っているから役を持ち帰る必要がないっていうのもあるかもしれません。舞台って5時間とか8時間のリハーサルを終えて家に帰ったり休憩を取ったり、そしてまた戻ってきて演技をするっていう事の繰り返しだから、自分のペースをつかむ為に自分自身で調整する事が出来るんだと思うんですよね。

フィリップ・シーモア・ホフマンがトラブルを抱えていたことを知っていましたか?演じる上で神経を尖らせたり感情を表現したりしなければならないと思いますが、その事がそれぞれが抱える問題を悪化させることに繋がると思いますか?

サム・ロックウェル:フィルは仕事を適当にこなすっていう事が好きじゃなかったんです。リアルに見せたいからこそ、それこそ撮影に入る前に椅子を壊したりとか、とにかく映画の中や舞台上でいい加減な芝居はしたくないっていう。「適当」や「おざなり」って表現があるけど、フィルにとってそれは絶対に許せないことだったし。フィルに舞台の演出をしてもらったことがあるんですが、そんな彼だからこそ素晴らしい監督であり素晴らしい俳優でもありました。そして有言実行の男でもあったし。フィルは人生において大きな欲望を持っていたんです。でも自分を追い込み過ぎてしまって、犠牲を払うことになった。彼は本当に本当に素敵な男でした。彼に会いたいです。とにかく、僕の世代においてナンバーワンの本当にクソ素晴らしい俳優でした。

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